プロジェクト発足にあたって
21世紀にはいり、世界は、のほほんと日々を送っている人間にとっても変化のとき、つまり花田清輝のいうところの「転形期」であることがはっきりしてきたのではなかろうか。
とくに日本においては、政治と経済の機能麻痺があきらかになり、人々は確たる想いもないままに、漠然と変化をもとめて右往左往している有様である。
しかしながら、政府や経済界はもとより、マスコミ・言論の世界においても、この時代を歴史の中で的確に認識しようとし、新たな時代を生きるための行動の原理を形成しようという動きは見えていない。
花田は、個人のオリジナリティなどたかが知れたものであり、時代のオリジナリティこそ大切だとした。そして、時代を手厳しく批評し、自在に、過去に散らばる可能性と対話することで、考え・行動する原理を作り続けた。このプロジェクトのうちのひとり菅本康之は、花田の1960年代からの小説・戯曲が、革命のための理論ではなく、それ自体が革命の実践であることをその著作『フェミニスト花田清輝』などであきらかにしようとしている。
ただし「前近代を否定的媒介にして近代を超克する」という花田のテーゼを蘇らせようという我々にとって、「近代」という、いまを生きる人々が現実と思い感じている夢を、今一度あきらかにしなければ、再び「正義」の名において、他者を否定・抹殺する力に加担してしまうおそれがある。すべてを「商品」という「夢」に乗せて、徹底的な効率化へと突き進む世界の流れの中で、自分たちの愚かさをも快活に否定できる知性を身につけながら、世界の形を少しずつ変えてゆくこと。居直らず、あきらめずに考え、行動してゆくこと。
我々は、花田清輝(もちろん花田だけでなくても良いのだが)を読み、考え、書くことでそのような実践をしてゆくつもりである。
対立する意見も大歓迎である。参加しやすいプロジェクトをめざしてゆく。
菅本康之/藤井 啓
fujii@gimmig.co.jp
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